アメリカズカップ日記202310|AC40の一般ユーザー向け販売始まる

2023.10.05

初めてアメリカズカップを現場で観て以来約30年、その間、ニッポンチャレンジのセーリングチームに選抜されるなどしながら、日本のアメリカズカップ挑戦の意義を考察し続けるプロセーラー西村一広氏による、アメリカズカップ考を不定期連載で掲載する。新時代のアメリカズカップ情報を、できるだけ正確に、技術的側面も踏まえて、分かりやすく解説していただく。本稿は月刊『Kazi』10月号に掲載された内容を再集録するものだ。(編集部)

 

※メインカット写真|photo by Adam Mustill / America's Cup|近い将来に、このAC40クラスの一群が日本の海を走り回っていることを信じる。470級やモス級などで、若くて才能ある有能なセーラーたちも育っている。それを資金面で支える、日本の有能な大人たちの出現を切に期待する 

 

 

 

バルセロナ沖の暑い夏 

先月8月10日からの3日間、バルセロナ沖に第37回アメリカズカップ(以下、AC)の防衛チームと挑戦チームが、1チームを除いてすべてそろい、各チームのLEQ12やAC40を使った模擬レースが行われた。 

運営サイドにとってこのイベントは、その約1カ月後の今月9月14日から4日間、バルセロナの40kmほど南の港町ビラノバ・イ・ラ・ヘルトル(Vilanova i La Geltru)で開催されるAC40クラスによるテストイベントのリハーサルの意味合いが強かったが、レースに参加するチームや選手にとっては、かなりチカラの入ったものになったはず。 

なぜなら、ワンデザインモードのAC40クラスで戦う9月のイベントと異なり、8月のその模擬レースでは、各チームがテストしている、自身やライバルのフォイルデザインの優劣が明らかになる瞬間があるかもしれなかったからだ。 

 

 

AC40、一般販売開始!

ところでそのAC40クラス。いよいよ一般向けの販売が始まった。つまり、一般のセーラーが、自分のヨットとして購入して、フォイル・セーリングを楽しむこともできるし、真剣なレーシングチームを持つオーナーさまの場合は、近い将来に開催されることになるAC40のワールドサーキットに参加することもできる。今のところの計画では、AC40クラスはオーナードライブ・クラスになる可能性は低いようだ。 

AC40クラスのクルーは4人。両舷フロントピットに座る2人がステアリング(風上側)とフォイリング高度/ピッチコントロール(風下側)を担当し、リアピットに座る2人がメインセールトリム(風上側)とジブトリム(風下側)を担当する。フォイルアームの上げ下げ、ラダーのレーキコントロール、ジブトリム、メイントリム、マストローテーションはすべてバッテリーによる電動油圧で、プッシュボタンで操作する。なので人間グラインダーを用意する必要はない。 

バッテリーは、一日のデイレース複数本に対応できる容量を持つ。 

安定したフォイリングを維持するためのフライトコントロールは、全てコンピューター制御されたオートパイロットに任せることができる。 

 

 

船台に載せた状態での整備中の安全策として、スタンションライフラインがセットできる 

photo by AC40CA 2023

 

 

右舷側フロントピット。ヘルムスマンはここに座って最高速50ノット超えで戦うのだ。胸が躍るね 

 photo by AC40CA 2023

 

 

輸送用ラックに入った船体。船体、2本つなぎのマスト、フォイルアーム&ウイング、セール、備品などすべてが40ftフラットコンテナ1本の中に収まるという 

photo by AC40CA 2023

 

 

新規AC40オーナーへの手厚いサポート 

AC40クラスは、船体、フォイルウイング、フォイルアーム、駆動装置、オートパイロットリグリギン、セール、計器類、バッテリー、バッテリー充電器、さらに40フィートオープンコンテナにすっぽり入る船台など、全てを含むパッケージとして販売される。 

これまでとこれからも、現在のACチームによって得られたものも含むAC40クラスのパフォーマンスデータは、このクラスのオーナー全員で共有する。だから遅れてこのクラスに参入したオーナーも、ACチームやベテラン有力チームとまったく同じデータを手にすることができるのだという。 

気になる価格は285万米ドル。この原稿を書いている時点のレート(1米ドル145円)で換算すると、4億1,325万円。 

外国の、あるレーシングチームのマネジャーによると、この価格でも、年間レース活動費込みで比較してみると、TP52のチームを維持するよりも圧倒的にリーズナブルなのだという。サポートボート要員を入れてもクルーの数が圧倒的に少なくなり、また、パッケージ全体が40ftコンテナ一本に入るので、AC40クラスのロジスティクスに関わるコストも圧倒的に抑えることができるのだという。 

また、AC40クラス組織は、艇の販売と並行して地中海にAC40のトレーニング基地を設立する準備をしている。そのベース基地で、新規参入オーナーのクルーを対象に、安全スキル講習や基本的ボートハンドリングや上級技術をトレーニングするセッションを、シミュレーターでの練習も含めて提供するのだという。 

念のため、購入に興味ある読者のために、AC40クラスのパッケージ詳細を以下に列挙しておきますね。 

 

 

 

 

 

 

(文=西村一広)

※本記事は月刊『Kazi』2023年10月号に掲載されたものです。バックナンバーおよび電子版をぜひ

 

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西村一広

Kazu Nishimura

小笠原レース優勝。トランスパック外国艇部門優勝。シドニー~ホバート総合3位。ジャパンカップ優勝。マッチレース全日本優勝。J/24全日本マッチレース優勝。110ftトリマランによる太平洋横断スピード記録樹立。第28回、第30回アメリカズカップ挑戦キャンペーン。ポリネシア伝統型セーリングカヌー〈ホクレア〉によるインド洋横断など、多彩なセーリング歴を持つプロセーラー。コンパスコース代表取締役。一般社団法人うみすばる理事長。日本セーリング連盟アメリカズカップ委員会委員。マークセットボットジャパン代表。

 


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